プルーク暴言A・009号「ナンバは存在する」

【プルーク暴言A】009号「ナンバは存在する」

前号までは「ナンバ論」の矛盾点を書き連ねていった。
それらの相関関係をまとめたものが右図になる。

 

図では信憑性の欠ける部分に???マークを付けてみた。

例えば、飛脚の写真や絵から推測して、飛脚が飛び六方の動きで走っていた・・・とする説や、農民中心の明治税府軍が薩摩軍に追いかけられ惨殺されたことで、昔の日本人は走れなかった・・・とする説である。これらはおおよそ信じ難い内容であるから、提唱者は更なる説明や証拠を提示する必要があると思う。

一方、右図の中で黄色の網掛け示した部分に関しては、実際に事象として存在するものだ。これら現実に存在する事象と矛盾点の関係を細かく検証すれば、ナンバ論の謎が見えてくるかもしれない。

今回からは、これら現実に存在する現象を、それぞれ検証してみようと思う。

 

【ナンバは現実に存在する】

「ナンバ」とは、歌舞伎や狂言、日本舞踊などに用いられる専門用語である。この舞踊の専門用語が一般的に広まったのは、1970年代、演出家である武智鉄ニ氏の著書によるところが大きいとされる。武智氏によると「ナンバ」は、「右手と右足が同じ方向に出ている状態を表す言葉だという。

この状態を最もわかりやすく表した例が、歌舞伎の「飛び六方」になるだろう。しかし、本来「ナンバ」とは、歌舞伎において、力強さを表現する場面以外で、この形(ポーズ)になることを忌み嫌った言葉であり、正確には、飛び六方のように力強さが表現される場面、以外で、飛び六方の様な形になることを嫌う言葉ということになる。(※つまり、日常生活や歩行・走る・・といった局面で六方の形が現れることで「ナンバ歩き・走り」という言葉が登場したことになる。これは間違いではない。

勧進帳 飛び六方(7分45秒附近より)
http://www.youtube.com/watch?v=SJiTy9L3m74

 

私の中で長い間、「ナンバ」の定義に関して疑問に感じていたことがあった。
それは、「ナンバ」とは同じ側の「手、肩、腰、足」の4点が、揃って身体の前に出なければならないのか?それとも「手、足」の2点だけでも前に出ればナンバ言えるのか?ということである。

調べるうちに、「六方」という言葉が単体で存在することがわかった。そこから判明したのは、「ナンバ」とは力強さを表現する場面以外で「六方」になることを嫌った言葉ということだ。つまり、力強さを表現する「飛び六方」に於いて、「ナンバ」が見られる・・・という表現そのものが間違いであって、「飛び六方」は、あくまで飛び跳ねている「六方」だということになる。

歌舞伎・六方
http://www2.ntj.jac.go.jp/dglib/contents/learn/edc_dic/dictionary/dic_ra/dic_ra_03.html

 

そして、この「六方」を調べていくうち、どうやら、同じ側の「手、肩、腰、足」の4点が、揃って身体の前に出ている状態だけを「六方」ということもわかってきた。

逆に、「手、足」の2点だけが身体の前にある「六方」というのがみつからない(※恐らくそれを六方とは言わない)

そこで今後は「ナンバ」=「六方」としてとらえ、それは同じ側の「手、肩、腰、足」の4点が身体の前に出ている状態を現すものとして話を進めて行くことにする。→(※顔、肩、手、胴、腰、脚・・の6点が、同一方向を向く形から「六方」となったのかもしれない)

 

そうなると「ナンバ走り」という言葉の使い方は少し変だということが見えてくる。正確には「六方走り」である。

まっこれは今更言っても致し方無しであろう。

そして、これは重要なことになるが、現在では、手を無視して同じ側の肩・腰・脚部だけが前に出ている状態でも「六方」に含めてしまっているということだ。

また、「ナンバ」や「六方」という言葉は、人間の動作の、ある一定の状態・状況・局面を示す言葉であって、動作・行動・運動を指し示すものでは無いということも見えてくる。

 

【生活の様々な場面で見て取れる六方・ナンバ】

さて、舞踊の世界のみならず、生活の様々な場面で、「六方・ナンバ」を目にすることができる。洗濯物を乾す時、部屋に掃除機をかける時、少し離れた所にある物を取る時などである。

「六方・ナンバ」の例として必ず挙げられる、例えば、農業で鍬を振り下ろした最終形に「六方・ナンバ」を見て取れる。注意しなければならないのは、鍬を振り下ろす為に、半身の体勢を取っただけでは「六方・ナンバ」にはならないということだ。同様に、フェンシングの「突いた瞬間」や空手の「順突き」は、はまさに「六方・ナンバ」ということになる。

くどいようだが、「突き」を出してない状態では「六方・ナンバ」と表現できない。

 

【サバキに見るナンバ】

さて、空手の芦原会館には独特の「サバキ」という動きがある。ここにも「六方・ナンバ」を見ることができる。

芦原英幸館長のサバキ
http://www.youtube.com/watch?v=42iZTqUVyME&feature=related
http://www.youtube.com/watch?v=Xhc3DfNR8sA&feature=relmfu

 

 

左図は芦原会館のステップを図式化したものだ。

2ステップで体勢を入替えるための基本的かつ重要な動きであり、芦原会館に入門すると徹底的にこの動きをマスターさせられる。

まず、右足を身体の斜め前に出す。そして、続けざまに左足を引いて体勢の入れ替えを完了する。

ポイントは、右足を出す直前、僅かながら左足に体重をかけ、同時に右足をステップさせる点だ。つまり、右足を踏み出すには、右足に体重が乗ったままでは素早く踏み出せないということだ。

この連続運動の中に、左右の脚部を軸として、交互に軸を入替える「二軸運動」を見ることができる。

こうして考えると、武道に見られる動きの中に「六方・ナンバ」=「二軸運動」と見てしまう向きがあるのも無理からぬことだと思えて来る。

※なお、体勢を入替えるだけなら、軽いジャンプで両足を軽く浮かせ、瞬時に入れ替える場合もある。そちらは背骨を中心とした「一軸運動」である。

 

【すり足について】

さて、もうひとつ気になるのが、狂言など舞踊の世界で見られる「すり足」の動作。江戸城の廊下を、袴の裾を気にしながら小走りに走る武士・・・現状ではこれを「ナンバ歩き」に含めて見て取る向きもある。要は「腰に手をあてがい、すり足で歩く動作」が、なんとなく「現代のナンバ走り」に似ているからである。

しかし、この「すり足」に武智説を当てはめてみると「六方・ナンバ」にはならないことがわかる。ここにも「ナンバ論」の大きな矛盾が見えているのだ。

狂言 瓜盗人
http://www.youtube.com/watch?v=ftP0m9Q_IGY&feature=related

 

続く・・・Schi Heil !!