プルーク暴言A・012号「二軸論の中の見えない1本の軸」

【プルーク暴言A】012号「二軸論の中の見えない1本の軸」

前回は、現代のナンバと呼ばれる走りや歩き方に関して考察を行った。
その結果、現代のナンバは腕を振る代わりに、肩を振って従来の走り方・歩き方と同じことをしているということがわかった。また、その独特の走り方・歩き方が、上体の動きを抑制した中から見出される可能性も示唆した。今回はいよいよ二軸論へと視点を向けて行く。まず、その前に・・・

 

【竹馬イメージ】

前回、私は現代のナンバと呼ばれる「ある種の走り・歩き」をする時に、身体を2等分して竹馬の様に倒しながら進むイメージを持つようにしていると書いた。
この歩き方、山岳スキーのシール歩行で非常にアドバンテージのある歩き方である。 また、股関節の附近に支点を持ってくると、上体はピタリと静止したように動かなくなり、ザックを背負って歩くのに有効である。
この歩き方を知らなければ、2011年3月に私が単独で行った「兵庫鳥取県境尾根・戸倉峠~三室山、OneDay往復 山スキー」のような過酷なロングトレイルの実現は不可能だったであろう。

さて、この歩き方、ともすれば「二軸運動」と表現される。私はまったくそのように考えたことは無いのだが、この「ある種の走り・歩き」が「二軸運動」と呼ばれる由縁を考えてみよう。

まず、「軸」とは何だろう?Wikipediaを調べると
あるものの中心となる要。中軸。
・数学における軸。基準となる直線。座標軸を参照。また、対称軸については線対称を参照。
回転の中心となる直線。回転軸。
これら以外にも・・・
・植物の茎の俗称。
・筆・ペンなどの手に持つ部分。
・・・とある。 そう考えると、竹馬イメージで、身体を2等分して2つの軸を使い分けるような走りや歩きは、やはり二軸運動なのだろうか?

 

【がに股歩きとコンパス】

右図は少しガニ股気味に歩行をしている時の足の運びをイメージしたものである。

こうして見ると、両足の足元を中心とする部分に回転軸が見受けられのがわかる。

また左右の足の運びのラインが2本の対称な線を描く。図ではわかり難い場合は、コンパスを交互に進める動作をイメージするのも良いかもしれない。

 

そうすれば、コンパスの足がそのまま軸となり、交互に軸を使い分けることによって前に進むのが良くわかるはずだ。しかし、ここで注意して頂きたいのは、コンパスを持つ指先にもうひとつの軸が存在する点である。

結局、コンパスをクルクル回すにしても、2本の軸の中心にある、もう1つの軸を考えなければならない。

このコンパスの頭の軸を、脚部の軸と一致させた動きが、飛び六方的ナンバになる。そしてコンパスの頭を走りの中央に据えた動きが、「現代のナンバ」の代表格である「桐朋高校バスケ部式ナンバ走り」となる・・・。

つまり、巷で言われているような本当の?二軸運動で走ったり歩いたりするには、非常に効率の悪い飛び六方的ナンバをしなければならないのだ。これが実現できた時、本当の意味での「ナンバ走り」「二軸運動」になる。つまり、裏を返せば、イメージ的には竹馬のように2本の軸を交互に使う「現代のナンバ」も、結局は背骨を中心とした一軸運動だったことが見えてくる。

以上のように考えると、二軸・・・二軸と言われている走り方・歩き方のほとんどは、ガニ股で走った足跡の軌跡を、2本のラインが残ることから「二軸」と称しているだけのように思う。スタンスは何とでもなるのだ・・・

 

【SAJでは?】

さて、スキーの話題から離れて久しくなるが、そろそろSAJスキー教程に取り上げられた二軸論に話を戻そう。タネを明かせば「ナンバ論」「二軸論」がいかに根拠の無い論法であるか・・・を説明して、それらを取り上げている市野スキー理論の根拠の無さを証明したかったのだが、実はそう簡単ではない所まで事態は進行している。

市野スキー理論で取り上げられている二軸論では、飛び六方的ナンバ「現代のナンバ」が混在してしまっているものの、本当に取り上げたい動きは飛び六方的ナンバだった様である。

左図は「プルークボーゲン・007号」にて使用した二軸運動の図である。飛び六方的ナンバはこのような運動になる。

スキーは走ったり歩いたりするのとは、かなり異なる運動である。走りや歩きでは効率の悪い運動であっても、スキーであれば逆に効率が良くなる場合もあるかもしれない。

実際には、このような動きをスキーに当てはめたものが、既にトレンドとして1~2級受験のスキーヤーに浸透してしまっているのだ。それは通称「やじろべえ」と呼ばれる滑りである。

 

【やじろべえ】

「やじろべえスキーヤー」の出現を意識し始めたのは2010シーズン頃だったように記憶している。最初に気が付いたのはYouTubeにUPされた地方技術選出場選手の練習映像だった。

とにかく両手を大きく広げ、ただ倒す滑りが、何回にも分けて数本UPされていた。UP主の技術レベルはクラウンだったから、私より上手なスキーヤーということになる。当初は何かの練習・エクササイズだと思った。

その後、以前、世話になっていたスキースクールの知人から、最近の技術選では「やじろべえ」じゃないと点が出ないんだ・・・と聞かされ、唖然となった。
そうか、あのYouTube映像は、エクササイズではなく、本番を想定したものだったのだ。その後、意識し始めたからか?ゲレンデでも度々見かけるようになった。

これはある有名女性スキーヤーの滑り。雑誌付録のDVD映像から切り取ったものである。おそらく撮影は2012シーズンと思われる。

 

 

 

同女性スキーヤーの5年前の滑り。2008シーズンの雑誌付録DVDより。撮影は2007シーズンと思われる。

なるべく上の写真と同じタイミングで切り取ってみた。明らかに、上体の構えと両腕を意識的に変えているのがわかる。

この2012シーズンのスタイルで、両腕を「やじろべえ」の様に大きく広げて滑るのが最近のトレンドなのだという。

意味もないシルエット以上に驚いたのはその滑り方である。

スクールの知人の話によると以下の通り・・・・

①両腕を大きく開く。局面によって変えない。開いたまま。
 外腕を肩より上に挙げる。
体幹のねじりは使わずにそのまま身体を倒す。
③体が倒れるに従い、内手が雪面に近付くので、
 その時がストックのタイミング。
④ストックの位置が回転の中心になる。
 ただし、出来るだけストックは突かない。

まさしく、上に挙げた「二軸運動の図」そのものの滑りである。







軸を倒して外腕を肩より上に挙げる。腕は広げたまま、局面によって変化させない。







「飛行機ブーン」のイメージである。








ここまで一生懸命にやっているのは、正直、気の毒である。








デモンストレーターならいざ知らず??(デモも困っていた)1級から2級受験レベルのスキーヤーやジュニアスキーヤーが一生懸命、これを行なっている・・・だとすれば、とんでもない話である。これが「自然で楽なスキー」の本質なのか?!

腕を広げるのは100%見た目だけで、技術的意味は全く無い。問われるのは滑走技術であるべきだ。

実際、この滑りを行なった場合、ある独特のくるくると回る感覚で滑れるのだが、それはかなり限られたシュチエーション内での話であり、急斜面やコブ、新雪、山岳の悪雪などでは全く使い物にならない滑り方である。つまり、「カーバー」等の様に、ごく限られた条件の中で使う技術の班中になるだろう。
(※追記2021/09/24)名デモンストレーター渡辺一樹氏が、何もしない棒立ち滑りが出来ず、2021シーズンを最後にデモ引退とのコメントあり。

 

左の写真は、日本を代表するプロ・カーバー、乗鞍高原スキー学校・奥原いたるプロの滑りである。このように、限られた条件で楽しむ技術というのは、カービングスキーの登場により可能となった。それはそれで素晴らしいことである。しかし、これはあくまで大きなスキー技術の中の、応用編・枝葉の部分に該当する技術だと言える。

ちなみに、この滑り・・このような極端な内傾角あっても、バランスが取れており、不安要素が無い。見習う点は多いのも事実。「やじろべえ」指導者にはぜひ考えて頂きたいものである。

「やじろべえ」は市野スキー理論を代表する滑りであり、私からすれば、その根拠の無さを象徴する滑りではあるものの、実際に滑ることも可能なのだから始末に悪い。つまり、悪条件で滑れないのは己の習熟度が低いから・・・と見る向きがあるからだ。

おまけに、やじろべぇスタイル以前のスキーヤーは「昭和の滑り」と称して嘲笑されることがあるらしい。

SAJも、とんでもないことをやってくれたもんだ・・・これは暗黒の10年の置き土産と言えるだろう。

 

続く・・・Schi Heil !!