【プルーク暴言B】003号

【プルーク暴言B】003号

今や、カービングスキー以外のスキーは無く、空気と化した感のあるカービングスキーの性能だが、そんな状況だからこそ旧来のトラディッショナルスキーと比較することで、スキー技術の変遷が見えて来るように思う。
今回は、改めてカービングスキーの特徴を考えてみた。

 

カービングスキーでの滑りの特徴】

①ズレが少なく、深く身体を倒して滑ることが可能だった。
 トラディッショナルスキーでは転倒してしまうような、極端な内倒で谷回りを滑っても、切替えに向けて身体を起こすことが可能。状況によってはエッジが噛んでコントロール不能に陥る場合もあった。

②若干の内向姿勢が現れるようになった。
 身体の軸を倒しても転倒しないという特性から、谷回りの時点から進みたい方向に身体を倒して滑ることが可能となり、若干の内向姿勢が見られるようになった。その結果、トラディッショナルスキーではローテーションとされた内向姿勢も、さほど問題がないとされるようになった。

③内足の引上げ操作を行なわなくて済むようになった。
 内スキーへの特別な操作がなくても、外スキーに同調させて滑ることが可能となった。トラディッショナルスキーの場合、内スキーが真直ぐ進むことにより、外スキーと滑走ラインがクロスして転倒することがよくあった。そのため、外足の妨げとならないよう内足の引上げを意識して滑っていた。
(※)90年代後半の最終段階のトラディッショナルスキーでは、さほど内足の引上げは必要では無かった。

以上がカービングスキーでの滑りの特徴となるだろう。

 

サイドカーブが違うから操作が違うのか?】

ではなぜ、サイドカーブの違いが、上のような滑りの違いとして現れたのだろう?形が違うのだから滑り方も違う・・・この当たり前で単純な定義を少し深く考えてみたい。

まず先に、50年、60年前であっても実用的カービングスキーの製作は可能だったという点を銘記しておく。

カービングスキーが登場した当初は、新素材がカービングスキーの製作を可能にしたとされていた。しかし、2014年現在、ウッド積層構造のカービングスキーの存在を考えると、カービングスキーの登場に新素材は関係無かったことがわかる。

もちろん、スキーに限らず、この10年で全ての工業製品の品質は劇的に向上した。しかし、それを差し引いても、50年前にカービングスキーのようなサイドカーブを持ったスキーが製造できなかった理由にはならない。これは重要なポイントであり、この点を押さえて話を進めて行こうと思う。
(※)カービングスキーの製造は、合板、グラスファイバー、ステンレスがあれば十分に可能である。
( ※)どのような木製素材をどのように積層すれば、どのような感触のスキーが出来上がるのか?コンピューターシュミレーションが簡単に行える現代と50年前とでは、工業技術的な格差は存在する。
 (※)プラスチックブーツが一般化したのが80年代に入る直前だったので、サイドカーブの強いスキーは必要なかったと考えられる。

 

スノーボードの発想から生まれたカービングスキー

元来、歩行用具だった細長いスキーが、次第に山岳滑降に適応するようになり、その過程でサイドカーブが考案されたとされている。サイドカーブの狙いは、雪の斜面でスキーのたわみを引き出し、回転性を向上させることにあった。サイドカーブが施された初めてのスキーの登場は1870年初頭ということらしい。

その後、130年間、微かなサイドカーブが付けられていに過ぎなかったスキーに、強いサイドカーブが施され始めたのが1990年代初頭。ゲレンデ後発勢力だったスノーボードにヒントを得たということだ。

当時の写真を見ると、スノーボードはその出現当初からサイドカーブが強かったことがわかる。
(※)正確には、MOSSスノーボードは当初からサイドカーブは強かったが、米国バートン・スノーボードの初期タイプは、トラディッショナルスキーと同様、サイドカーブは緩かった。ただし、これらにはトップ付近にロープが取り付けられており、手で握って滑るようになっていた。その後、補助ロープが取り外されるに従い、サイドカーブも強くなっている。

 

このように、70年代中頃から90年代の中頃までの約20年の間、スキーのサイドカーブは緩く、スノーボードサイドカーブは強いまま、お互い相容れなかったことになる。もし仮にスノーボードのゲレンデ実績が無かったとすれば、あるいはカービングスキーの出現も無かったのかもしれない。

 

サイドカーブの強さ(深さ)を決定したもの】

スキー単体で見れば、雪上で起こっている物理現象はスキーもスノーボードも全く同じである。カービングでも滑れるし、ずらし主体のスキッドでも滑れる。にもかかわらず、登場した時点で、なぜ、スノーボードサイドカーブが強かったのだろう?

それはスノーボードの登場が、サーフィン、スケボーを由来としているからだと考えられる。

ご存知のようにサーフィン、スケボーは、進みたい方向に身体を倒して進む方向を決定する。その点がトラディッショナルスキーと根本的に異なっているのだ。
(※)モノスキーもスノーボード、スケボーと同じであり、感覚は自転車、バイクと共通するところであろう。

 

【倒しただけでは曲がらないスキー】

私が初めてスキーを履いたのは1980年代初頭のことだった。当然のことながらスキーはトラディッショナルタイプで、プルークボーゲンの習得からのスタートだった。アマチュアレスリングの選手だったこともあり、滑る前はかなり自信があったのだが、いざ滑り始めると、まる1日、曲がることができない。
それもそのはず、サーフィン、スケボー、そして、乗り慣れた自転車のように、一生懸命身体を内側に倒していたのだ。トラディッショナルスキーのサイドカーブは緩く、直滑降から身体を倒しただけでは曲がれなかった。いや、実際は僅かながら曲っていたはずだが、本人は気が付かなかった。

トラディッショナルスキーを使ってターンするには、外スキーのスキッドたわみを促すため、積極的に外側のスキーに体重移動しなければならない。つまり、進みたい方向とは反対の足に体重を乗せることが必要であり、それ以外の選択肢は無かった。

当時の私は、それが直ぐには飲み込めなかった。プルークボーゲンを行ないながら、内側の足に積極的に荷重を行っていたのだから、結果は最悪だった。

それから約20年後、私がスキー学校で生まれて初めてスキーを履くキッズを担当した時、この「進みたい方向と反対の足に体重を乗せる」・・・という不思議な行為を理解させるのに大変苦労することになる。

「進みたい方向と反対方向に体重をかける」
繰り返し書くが、板単体で起きている現象はスキーもスノーボードも同じである。錯覚とはいえ、確かに不思議といえば不思議な話である。これがスキーの上達を妨げる第一歩の「壁」なのかもしれない。

 

【身体を倒さずに進む方向を決めるプルークボーゲン】

では、身体を倒さずに進む方向を決めるプルークボーゲンの滑走原理はどのようなもだろう?
原理は至って簡単である。開いた2本のスキーの、左右のスキーのスキッドとたわみの量に差を生じさせて方向を決めるのがプルークボーゲンだ。

確実に言えるのは、ここに「進みたい方向に身体を倒す」という意識は、かけらも存在しないということだ。スピードが上がるに従い、身体の傾きは現れるものの、それは踏ん張った外足の作業量に見合った分だけである。小難しい表現をすれば、傾きは慣性力(遠心力)に釣り合う分だけ・・・ということになる。

また、スキーには、踏み替えやステッピングなど、両足を独立させて操作できる融通性も存在する。両足を固定されたスノーボードとは、その点が大きく異なる。

これらの点を踏まえると、スキーはその登場以来、「進みたい方向に身体を倒す」という必要性に迫られなかったといえるのではないだろうか?

 

サイドカーブの違いは身体の自由度の違い?】

一方、スノーボードは、身体を倒して行き先を決める・・・という発想があったことに加え、両足が固定された中でボードを操作する必要があったため、角付けコントロールへの要求度が高かった可能性が高い。

そのため、角付けだけでも行き先を調整できるよう、サイドカーブは強目に設定されていたのではないだろうか?

つまり、倒して滑ることが可能な様に、また、身体を倒しても起き上がって来れる様、サイドカーブが強く設定されていたのだ。

そうなると、逆説的に、両足の融通の利くスキーは、強いサイドカーブで倒して滑る必要が無かったとも言える。

 

◆余談であるが、「移動」というキーワードでスポーツを考えると、ほぼ、そのほとんどが方向を変える際、外側の足を踏ん張るものばかりである。まぁ、当たり前ではあるが・・・
例;;陸上運動全般(歩行、ランニング)、スキー、スケート、4輪自動車・・・

◆一方、身体を倒して行き先を決める必要のあるものは意外に少ない。
例;;サーフィン、スケボー、スノーボード、モノスキー、Skwal、自転車、バイク・・・など。

(※)実はスノーボーダーやモノスキーヤーが、身体を倒して行き先を決める操作をしているかというと、実はそうは言えなかったりするのだ。これは【プルーク暴言】010号にて・・・

 

【今回のまとめ】

①50年前でも深いサイドカーブのスキーの製作は可能だった。
②登場当初のサイドカーブ、スキーは緩く、スノーボードは強い。
サイドカーブの強さの違いは、根本にあるスキーとスノーボード自由度と操作方法の違いではないか?
④緩いサイドカーブは外足で踏ん張る操作が適している。
⑤角付け操作には強いサイドカーブが適している。
⑥自由度のあるスキーは緩いサイドカーブ、制約があるスノーボードは強いサイドカーブ。

 

Schi Heil !!