【プルーク暴言B】006号「向心力のウソ」

【プルーク暴言B】006号「向心力のウソ」

結局、「カービング革命」に書かれている内容は、従来のスキー理論を踏襲している部分を除けば、発展した展開は見当らない。トラディッショナルスキーに関連した記述は正しいのだが、それはおそらく日本スキー教程を参考に書かれたためであろう

また、2名の超有名スキーヤーの滑走実験から得られた結論として、トラディッショナルスキーでもエッジに乗ったターンをすれば、角付けと荷重だけで曲がることが確かめられている点。さらには、サイドカーブの強いカービングスキーでは、より小さな回転弧で曲がることが可能だという、この2点に関しては、当り前の常識が当たり前に証明されているだけである。

それ以外は、こじつけの連続である。

「市野スキー理論」の特徴として「ターン内側への積極的な落下」とか、「角付け中心で滑るには内足主導型の滑りが適している。」といったような、内へ内への記述が良く見られる。もしかしたら名前は市野・・・ではなく内野だったかな?と思ってしまうことすらある。

これらが理論的に証明されていれば、それなりに納得もできるのだが、大抵の場合、有名人の話題を引き合いに出したりするだけで、本当の証明は行なわれていない。もし、氏が2014年も引き続きSAJの役員の座にあったなら、「STAP細胞」に関するこじつけも見られたであろうに・・・・と残念でならない。

そんな中、「向心力」を引用した記述があったので、今回は「向心力」からスキーを考えてみようと思う。

 

【力学用語の向心力ってなんだろう?】

この「向心力」・・・市野氏が自らの著書や講演などで度々引き合いに出す言葉である。「スキーヤーは重力をコントロールすることによって向心力を生み出し、向心力と遠心力とのバランスを取ることによりターンコントロールが可能となる。」としている。 つまり、この「向心力」・・・市野理論では、スキーヤー自身が重力を利用して生み出すものとしている。

例)神奈川県連指導員研修会のサイトでの市野教授の講演より
「◆向心力を得るための原因と結果」・・・の項を参照されたい。
「ターン運動は何かといいますと、ターン内側に向心力を得るということで回転をしていくことになります。前の教程では、向心力と遠心力が釣り合う図になっています。どういうことかといいますと、向心力と遠心力が釣り合ってしまうと真直ぐに行くしかないのです。」
http://www.sak.or.jp/report/2006/kensyu-riron/kensyu-riron1113-03.html
 (※)要約すると、向心力>遠心力にならないとターン出来ない?らしい。

さて、この「向心力」であるが、理解するには惑星と恒星の引力のバランスをイメージしてもらえれば良いだろう。

引力(向心力)が強まれば惑星は軌道を変えて恒星に引寄せられ、引力(向心力)が弱まれば惑星は公転軌道を逸れてどこかへ飛んで行く・・・
なるほど、物体が軌道を変えるには市野理論の通り向心力>遠心力となる必要がありそうに思える。

しかし・・・である。

向心力はスキーヤーが作り出す特別な力?とも受け取れる表現が気になったので、本当にそうなのか?調べてみると意外なことがわかった。

Wikipediaより「向心力」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%90%91%E5%BF%83%E5%8A%9B

Wikipediaより「遠心力」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%81%A0%E5%BF%83%E5%8A%9B

「向心力」と「遠心力」の違いについて
http://jyukenblog.cocolog-nifty.com/science/2009/02/post-9c13.html
http://physics20060523.web.fc2.com/enshinryoku2.htm

結局、市野理論で言うところの「向心力」と「遠心力」は世の中に存在しない・・・ではないか。上記サイトを読んで頂ければ、「向心力」と「遠心力」は表裏一体、同じものだということが理解できるはずだ。つまり「向心力」と「遠心力」は力学上の「力の方向表現の違い」で、ものは同じである。
(※言い方を変えると何が何でも吊り合っている・・と言える)

つまり、市野理論中の・・・
「向心力」と「遠心力」のバランスを取りながら滑る
向心力>遠心力にならないとターン出来ない
・・・などということは、力学の世界では絶対あり得ないのである。

そもそも、空間中の運動が、そのまま陸上で行われるスキーのターン運動に当てはまるのだろうか?つまり、引力に該当するような力を、スキーヤー自身が重力を活用して作り出すことが可能なのだろうか?

 

【ジェットコースターにおける向心力】

「向心力」と「遠心力」は言葉の綾であり、これを意識的に行なっているとすれば、かなり悪質だ。

とはいうものの、何かの力学上のバランスがありスキーが曲がって行くのは事実。そこで私は、スキーのターン運動(ターン始動~等速円運動)を説明する事例として、ジェットコースターを例として仮説を立ててみた。

物凄いスピードで斜面を落ちるジェットコースターは、重力の影響を受けフォールラインに沿って真下に落下しようとしている。しかし、カーブを描いたレールが邪魔してそれを許さない。この時、ジェットコースターを支え、軌道を変化させる力が「向心力」である。そして乗客が受ける力が、そのまま「遠心力」(慣性力)になる。

ジェットコースターが曲がったレールに沿って運動を続けるには、ジェットコースターの慣性力をレールと構造物が受け止め続ける必要がある。ジェットコースターの場合、構造物の支持力は、安全率などを考慮し、相当、ゆとりを持って設計されている。もし、レールを支える構造物の強度が「向心力(遠心力)」に満たなければ、ジェットコースターはレールもろとも軌道を逸れてしまう。

これらの現象をもっと簡単に表現すると、ジェットコースターは引力や揚力などのような力に引っ張られて軌道を変化・維持するのではなく、レールにぶつかって軌道を逸らされている・・・と考えることができる。

これらを、スキーにあてはめるとどうなるのか?

賢明な皆さんは既にお気付きのはず・・・スキー運動にとってのジェットコースターのレールは、スキーのトップが雪面に作り出した「エッジの溝」であり、ジェットコースターを支えるレールの「支持力」は雪の壁の強度(雪質)となる。

つまり、スキーとは雪の壁にスキーがぶつかり、進む方向が逸れる.・・・この細かな連続なのである。

この時、レールは最初から存在しない。スキーヤーが角付けを行なうことにより発生する。スキーヤーがエッジの角付けを行なうと、スキーの「たわみ」や「サイドカーブ」の影響で「トップエッジ」の方向と「足元のエッジ」の方向にズレが生じる。
そして、トップエッジが作り出した溝に、足元~テールのエッジが追従することにより、スキーはターンを始め、向心力が発生する。
(※このエッジの方向のずれをカービングスキーに内包された「迎え角」と言うこともできる)
(※この支持面(支持力)が、わずかづつ崩壊してゆくことでスキッディングの滑りとなる)
(※このたわみのコントロールが従来のサイドカーブの緩いスキーでは困難だった)

 

少し雑な表現すれば、先に雪の壁を造っておけば、スキーヤーは何もしなくても、スキーは勝手に曲がってターンして行く。そう!ボブスレーリュージュのように。

このエッジが作り出す溝の回転半径が小さく変化すると、必然的に抗力としての「向心力」が増大する。これを市野論では「向心力>遠心力」と錯覚しているのではないだろうか?あくまでも抗力が増大するのは、溝の軌道変化を受けるから・・・である。
結局、向心力が強まることにより軌道がな変わるが、それに伴い同じものである遠心力も増しているわけで、「向心力=遠心力」として力学上の変化は無いのである。

◆市野理論の物理的矛盾に関しては下記サイトが詳しいです。
「水平面理論を考える」で検索してみてください。

 

【今回のまとめ】

①「市野スキー理論」では数々の引用をしているが、力学の法則を無視した展開の最たるものが「向心力」(笑)
②市野氏の言うような「向心力>遠心力」によりターン始動することはない。
③「向心力」をスキーヤー自身が重力を利用して作り出すこともできない。
③-2 それが可能であれば力学上の法則に則って証明すべき。
④スキーがカービングターンで曲がるのは、雪の壁にスキーの進行方向が反らされているだけである。


Schi Heil !!