【プルーク暴言B】007号「実践・両脚スキー」

【プルーク暴言B】007号「実践・両脚スキー」

プルーク暴言001号~004号までは、カービングスキーの登場にまつわる話題を書いてきた。また、005号~006号までは、「カービング革命」という書籍と「市野スキー理論」の矛盾点を探ってみた。結局のところ、「市野スキー理論」はこじつけの連続であるというのはわかったのだが、市野教授が着眼した下記の点は事実として残る。

◆市野教授の着眼点
カービングスキーの登場により、回旋運動を省いた荷重と角付け中心の滑りが可能となった。
・角付け中心で滑るには内足主導型の滑りが適している。
・Gに対抗する為、内向のシルエット、操作が著明となる。

私がわざわざ001号~004号でカービングスキー登場前後の話題を書いたのは、上記の着眼点は事実であり、暗黒の10年を振り返るにあたり、スキー論の切り分けと整理を行なう必要があると感じたからだ。

つまり、「市野スキー理論」は、単なるデタラメなのだが、市野教授以外にも同様の着眼点をもってスキー技術の効率化に取り組んだスキーヤーがいたのも事実だからである。

あえて弁護もしないが、市野スキー論は、その証明力に問題があったということだ。(※2021年・追記;エビデンスの欠如

では、この着眼点に沿ったスキー理論が基礎スキーにとって有益であったか?というと、そうでもない。

002号で書いたように、「基礎スキー」の基礎・・・という言葉には、ジャンルを越えた「スキーの基礎を極める」という意味があり、基礎を極めたスキーヤーは究極のオールラウンダーでなければならないはずだ・・・にもかかわらず、暗黒の10年でSAJが提唱してきたスキー技術は、ごくごく限られたEasyな斜面しか対応できないものだった。

もしかすると、これらカービングスキーに見られる滑りの特徴は錯覚だったのだろうか・・・・そんな疑問を持って、今回から2回に分けて、当時最新だと言われたスキー技術に関して記述してみたいと思う。

 

【両足荷重、内足荷重】

私が初めて両足荷重の滑りに接したのは、2000年の黒姫高原でのREXXAMキャンプだった。講師は山崎元義氏、松澤寿氏である。当時はカービングスキーが市場に出回り始めて約4シーズンが経過した頃で、次第に両足荷重が言われ始めた時期だったように記憶している。

当時、こんな言葉が良く聞かれた。

◆従来の片足荷重操作では、カービングスキーの滑走Gを全て受け止めることが出来ない・・・・

まず、レースの世界では、滑走Gを全て片足に集中させるとスキーが走らない、タイムが出ない・・・という問題が発生していた(・・らしい)。また、八方尾根では、元デモ・スキーヤーカービングスキーを使用中、転倒もせず膝関節の粉砕骨折を起こした・・・というニュースが話題にもなった。

私自身については、全面的にカービングスキーに変更した99~2000年にかけて、慢性的な膝の痛みに悩まされていた。これは、脚部への負担が急激に増大したのが大きな理由だった。

つまり、これらの諸問題の原因はカービングスキーの使用による滑走Gの増大であるから、その増大したGを両足で分散させて受け止める・・・といのが、両足荷重の狙いだとされていた。
(※後述するが、当時はスキーヤー自身がカービングスキーの滑り方を理解できてなかった可能性がある)

私の場合、とにかく倒して極端にGをかける滑り方が問題だったように思う。そんな滑り方をすれば今でも直ぐに膝を故障するだろう。カービングスキーの場合、軽く体重を乗せるだけで谷回りが完了し、ターン後半はむしろ圧は抜いてやるべきなのだが、当時、多くのスキーヤーがそれに気付いていなかったようにも思える。

いずれにしても、それまで外足に添えて浮かせておけば良かった内足の、その新しい使い方に注目が集ったのが2000年頃だった。黒姫高原のREXXAMキャンプでは、この内足操作のコツ所がレッスンの中心であった。

 

【2000年・黒姫高原のREXXAMキャンプ】

当時、キャンプでどのようなことを言われたか?を当時の滑走記録から拾い起こしてみると・・・

◆REXXAMキャンプ(2000年)

①ポジション
 ・かかと荷重
 ・足首のブロック
 ・上体は被せない(ポールを脇にはさむ)
 ・低い切り替え

②スキー操作
 ・2輪(バイク)感覚
 ・ひねらずに平行に倒れる
 ・真横に板が出る
 ・両すねの角度が同じ
 ・内スキーより内側に重心が来る様に
 ・もっと倒す

③圧変化
 ・ターン前半、中半、後半の圧変化が意識できるか?
 ・圧変化が急激にならない様にする。
 ・ぶつける様な操作すると反動が大きくなる。
 ・急激な圧変化が起こらないようにターン前半から積極的に圧をかける。
 ・ターン後半はエキセントリックな動作で増大する圧を緩めて行く。
 ・必ず角付して、つま先の動きで力を加え、トップからグリップさせる。
 ・エッジ角度で強弱をつける。圧は変化させない。

正しいか否か?は別として、現在、よく言われる一般的な内容だった・・・というのが改めてわかる。逆に従来のスキー操作がどのようなものだったのか?上に対応した内容で羅列してみると・・・

 

◆トラディッショナルスキーでのスキー操作(1998年以前)

①ポジション
 ・拇指球荷重
 ・上下動を利用した切替
 ・外向傾のポジション 

②スキー操作
 ・上体と下肢の捻りを活用する
 ・外スキーから重心を外さない

③圧変化
 ・荷重と抜重
 ・圧の変化を積極的に活用する
 ・谷回り抜重、山回り荷重
 ・踏み込み操作

これらを羅列するだけでもトラディッショナルスキーとカービングスキーでは、その操作に決定的な違いがあることがわかる。

ところが、今、冷静に考えると、意外にもそうとは言い切れない面も見えて来る。

まず、一般論として最も定着している「拇指球荷重」だが、実際はトラディッショナルスキーでも踵荷重が正解だった。踵荷重と簡単に書いているが、正確には土踏まずと踵骨境目付近になる。

また、90年代後半のトラディッショナルスキーでは、既に抜重や上下動を意識しなくても滑ることは可能で、むしろクロスオーバーの意識の方が大切だった。

2014年現在の視点で当時を振り返れば、カービングスキーの技術、従来のスキー技術、その両方に正解と間違いが混在していたことがわかる。今、つくづく感じるのは、カービングスキーの操作は、結局、コブ斜面での滑りに似た操作が正解・・・ということだ。
(※不思議な話だが、「拇指球荷重」「抜重」は、未だ不気味なほど脈々と一般スキーヤーに受け継がれている)

そして、何より重要なのは、REXXAMキャンプで教わった感覚・操作では、コブ斜面や深雪・新雪、山岳での悪雪に全く対処出来ない・・・という事実である。残念ながら、高いレッスン料と交通費、宿泊代を費やして得た技術は、中斜面・整地という限られた条件下のみで使用可能だったことになる。

 

【デモの言う「両足スキー」に触れる】

さてここまで、両足荷重という技術に初めて接した2000年のREXXAMキャンプのことを書いてきたが、翌2001年、地元のスクール勤務の際に、当時、兵庫県のデモだった平川和仁さん(ネスレ)から、両足スキーへの導入法を習う機会があった。ある意味、デモ直伝の最新の滑りというわけである。
(※平川仁彦さんではありませんので念のため・・・)

両足荷重、両足均等荷重を行なうには、内足に乗るスキーの操作が不可欠だが、平川和仁さんから教えてもらった導入手順(エクササイズ)は非常に効率的なものだった。私は現在でもこの手順を、内足の同調を意識させるために行なっている。

 

◆平川和仁流・両足スキー導入法

①オープンスタンスで内足(山足)の外エッジに乗り、横滑りを行う。
 横滑りでどんどん滑って行く。意外と急斜面の方がやり易い。

②必ずスコン・・・とはまる場所がある。
 この時は拇指球荷重ならぬ小指球荷重・・・

③内足での横滑りに慣れて来たら、内足切替えを行い、
 両内足で交互に滑る。俗に言う「内足スキー」で滑る。

④内足スキーができるようになったら、そこから外足へ荷重を移して行く。
 つまり内足10:外足0だったものを内足5:外足5に増やして行く。

⑤これらの手順を踏めば、自然に内足の先行動作が行えるようになり、
 若干の内向姿勢が自然に現れるようになる。

この時の、平川和仁さんの話では、今後、コブ斜面などでも技術の進歩により滑り方は変わってくる・・・との話だったが、残念ながらそうはならなかった。また、私自身、しばらくこの方法でがんばって滑ってみたが、山の重雪では全く歯が立たず、この方向を追求するのは筋でない・・・という結論に至った。

余談だが、この時、平川和仁さんに習った感覚の一つで、今なお意識し続けているものがある。
「エッジが削った雪の粉が、土踏まずのアーチを抜けて行く感覚」というものである。この雪の粉が流れる方向、そして、踵骨の前方でこの流れを受け止める感じなど、TOK師匠(故;佐々木徳雄氏)の「踵オレンジ」を、別の感覚で表現したものとして、時と場合により使い分けを行なっている。

 

【内足への荷重配分は?】

ところで、この両足荷重であるが、両足の荷重配分は未だ結論は出ていないように思う・・・とは言っても、現在では2000年頃のような5:5を言う指導者もいないようにも思うが・・・
(※レーシングの世界では未だ外5:内5を言う指導者が居て、ジュニアも混乱しているという話。これは海外在住の方のサイトから得た情報です→Rockface:内脚の使い方

また、これら一連の名称であるが、両足荷重、両足操作、内足操作、内足荷重、内足先行動作、両足同調操作、内足主導・・・などなど、様々であり、それぞれニュアンスも異なる。

例えば、両足同調操作と言えば、内足が外足に同調して操作されていれば良いわけで、両足の荷重配分は外10:内0であっても問題はない。(※とはいっても、10:0にするには内足の持ち上げが必要で、同調にはならないが・・・)

また、内足荷重に関して言えば、荷重比率が外8:内2でも、外5:内5でも同じ内足荷重であるが、その意味合いはかなり違ってくるように思う。

私の個人的な感覚を言わせてもらうと、カービングスキーの操作は、両足同調操作と表現するのがふさわしいように思う。荷重配分は、外8.5:内1.5ぐらいが正解ではないか?。これは宮下征樹・元デモが言う「内足は置いているだけ」がこれぐらいの比率になるだろう。

カービングスキーの場合、完全な外足1本でも滑れるが、スキーも短くなり、高速ターンではすっぽ抜けなどの危険が伴うので、内スキーに重みがある方が好ましいと思う。

また、一般的にカービングスキーでは、スタンスは少し開き気味と言われて来たが、私の感じるところ、オールドスタイルの閉脚の方が両足同調操作を行ないやすいように思える。これはあくまで、山岳、コブ、パウダー等を網羅した個人的経験値ではあるが・・・

 

【今回のまとめ】

①今なお、一般スキーヤーの間では「拇指球荷重」「抜重」が
 脈々と受け継がれている。
②トラディショナルスキーの操作、そのものも間違っていた。
③両足スキーをマスターしたが、悪い条件では歯が立たないことを
 身を持って理解した。
④現在では両足荷重5:5で滑ることを言う指導者は少なくなっている。
 これが①と同様、脈々と受け継がれている。

 

Schi Heil !!