【プルーク暴言B】008号
ところで、皆さんは「やじろべぇ」という滑り方をご存知だろうか???
【やじろべえ】(【プルーク暴言A】012号より)
「やじろべえスキーヤー」の出現を意識し始めたのは2010シーズン頃だったように記憶している。最初に気が付いたのはYouTubeにUPされた地方技術選出場選手の練習映像だった。
とにかく両手を大きく広げ、ただ倒す滑りが、何回にも分けて数本UPされていた。UP主の技術レベルはクラウンだったから、私より上手なスキーヤーということになる。当初は何かの練習・エクササイズだと思った。
その後、以前、世話になっていたスキースクールの知人から、最近の技術選では「やじろべえ」じゃないと点が出ないんだ・・・と聞かされ、唖然となった。
そうか、あのYouTube映像は、エクササイズではなく、本番を想定したものだったのだ。その後、意識し始めたからか?ゲレンデでも度々見かけるようになった。
これはある有名女性スキーヤーの滑り。雑誌付録のDVD映像から切り取ったものである。おそらく撮影は2012シーズンと思われる。
同女性スキーヤーの5年前の滑り。2008シーズンの雑誌付録DVDより。撮影は2007シーズンと思われる。
なるべく上の写真と同じタイミングで切り取ってみた。明らかに、上体の構えと両腕を意識的に変えているのがわかる。
この2012シーズンのスタイルで、両腕を「やじろべえ」の様に大きく広げて滑るのが最近のトレンドなのだという。
意味もないシルエット以上に驚いたのはその滑り方である。
スクールの知人の話によると以下の通り・・・・
外腕を肩より上に挙げる。
②体幹のねじりは使わずにそのまま身体を倒す。
③体が倒れるに従い、内手が雪面に近付くので、
その時がストックのタイミング。
④ストックの位置が回転の中心になる。
ただし、出来るだけストックは突かない。
まさしく、上に挙げた「二軸運動の図」そのものの滑りである。
軸を倒して外腕を肩より上に挙げる。腕は広げたまま、局面によって変化させない。
「飛行機ブーン」のイメージである。
ここまで一生懸命にやっているのは、正直、気の毒である。
デモンストレーターならいざ知らず??(デモも困っていた)1級から2級受験レベルのスキーヤーやジュニアスキーヤーが一生懸命、これを行なっている・・・だとすれば、とんでもない話である。これが「自然で楽なスキー」の本質なのか?!
腕を広げるのは100%見た目だけで、技術的意味は全く無い。問われるのは滑走技術であるべきだ。
実際、この滑りを行なった場合、ある独特のくるくると回る感覚で滑れるのだが、それはかなり限られたシュチエーション内での話であり、急斜面やコブ、新雪、山岳の悪雪などでは全く使い物にならない滑り方である。つまり、「カーバー」等の様に、ごく限られた条件の中で使う技術の班中になるだろう。
(※追記2021/09/24)名デモンストレーター渡辺一樹氏が、何もしない棒立ち滑りが出来ず、2021シーズンを最後にデモ引退とのコメントあり。
左の写真は、日本を代表するプロ・カーバー、乗鞍高原スキー学校・奥原いたるプロの滑りである。このように、限られた条件で楽しむ技術というのは、カービングスキーの登場により可能となった。それはそれで素晴らしいことである。しかし、これはあくまで大きなスキー技術の中の、応用編・枝葉の部分に該当する技術だと言える。
ちなみに、この滑り・・このような極端な内傾角あっても、バランスが取れており、不安要素が無い。見習う点は多いのも事実。「やじろべえ」指導者にはぜひ考えて頂きたいものである。
「やじろべえ」は市野スキー理論を代表する滑りであり、私からすれば、その根拠の無さを象徴する滑りではあるものの、実際に滑ることも可能なのだから始末に悪い。つまり、悪条件で滑れないのは己の習熟度が低いから・・・と見る向きがあるからだ。
おまけに、やじろべぇスタイル以前のスキーヤーは「昭和の滑り」と称して嘲笑されることがあるらしい。
SAJも、とんでもないことをやってくれたもんだ・・・これは暗黒の10年の置き土産と言えるだろう。
【内足主導と市野スキー論】
さて、暗黒の10年の原因ともなった「市野スキー理論」であるが、年代と共に少しづつ形を変え「水平面理論」に始まり「内足主導操作」「内向動作」「ターン内側方向への落下」へと変化して来た。これらの理論は現場から出てきたものではなく、実験と考察から出てきたものである。
まず、力学的観点から言うと、「市野スキー理論」は物理の法則を全く無視したデタラメ理論である。暗黒の10年を清算するにあたり、このスキー理論の考察結果が間違いだった点をSAJは認めるべきである。
では、市野聖冶・経済学博士がヒントを得たという、ヘルマン・マイヤーの長野五輪のGSの滑りや、私がREXXAMキャンプで教えてもらった技術はどうなのだろう?これらは実際の変化として存在したものだ。
であれば、市野スキー理論の証明方法がだけが間違っていただけ・・・ということなるのだろうか?
【ヘルマン・マイヤーから"やじろべえ"まで】

ヘルマン・マイヤーの滑りは、確かにノーマルスキーの時代とは異なるものであり、16年後のソチ五輪の映像を見ても、その流れは現在も変わらないのがよくわかる。ところが、同じ流れを汲んで良いはずの「やじろべえ」は、ソチ五輪のレーサーの滑りとは全く異なるのである。
日本国内でも、競技スキーと基礎スキーの考え方は二分しており、SAJが、どこかで何かを掛け違えたことは明白である。
では、市野スキー理論は何を取り違えたのだろう?
まず考えてみたいのは、ヘルマン・マイヤーが本当に両足荷重を意識していたのか?という点だ。実は、マイヤー自身は、それほど内足を意識していなかったのではないだろうか?
右の写真。長野五輪のヘルマン・マイヤーの滑りだが、内足は浮いており荷重されていない。とはいえ、私はこれが内足荷重を意識していなかった証明になるとは考えていない。逆に、散々、内足荷重の滑りの例としてWCスキーヤーの写真を見てきたからだ。つまり、ある瞬間だけを切り取っても意味が無いのである。
2001年だったと思う。八方尾根のメルツェンで宮下征樹さんと飲む機会があった。当時、宮下さんは、両脚荷重、内足の使い方が絶妙・・と評判。SJ誌でも、度々、特集が組まれる若手のホープだった。
私は遠慮のかけらも無く「ぶっちゃけ、宮下さんはどんな風に内足を意識して滑ってるんですか?」と質問した。すると、あっさりと「内足なんて全く意識してませんよ。」との答え。
これには、場に居合わせた一同が転んだ・・・
確かに、宮下さんの滑りは、渡部三郎さんの交互操作とは対照的で、その見た目の違いというのはあった。
・・・にもかかわらず、本人は内足は意識していないのだという。では記事は何なのか?結局、スキー雑誌の解説というものは、販売部数を伸ばすために、都合の良い解釈を紙面に載せているだけなのだ。
(※)その問題のスキー雑誌、SJ誌1997年8月号の「スキー技術対談・トップの視点」に宮下さん自身の声として、内足を全く意識していないことが書いてある。これは対談だったので偽り無く記事になるだろう。
ここで言いたいのは、内足の荷重比率は、第三者にはわからないのではないか?ということだ。
【本当に外7:内3なのか??】
そこで、片足を体重計に乗せて、滑走ポジションによって左右の体重バランスがのように変化するのか?という簡単な実験してみた。本来なら圧力センサーを装着して滑走中に計測できれば良いのだが、このような簡易実験でも、問題としているのは両足の荷重比率であるから、同じ結果が得られると考えられる。
◆この実験から、意外な事実が判明した。
実は、片足で立ち、もう片方の足を体重計に乗せるだけで、左右の足の荷重比率は8:2に変化した。原因については、片脚部の重量が体重の2割ほどあるから(かなり重い)と考えられる。
①9:1という比率は、意識的に片足の引上げを行う必要がある。
②昨今の滑りでは滑走中、自然に8:2程度の荷重配分になっている。
◆この結果から考えられるのは
・内スキーの引上げを意識しないカービングスキーでは、
自然に外8:内2で滑っている。
・ノーマルスキーでも、意識的に引上げ操作を行なわない限り、
外8:内2の荷重比率で滑っている。
・意識的な内スキー荷重というのは7:3~5:5を言う。
つまり、わざわざ意識をしなくても、両足の同調操作を行なえば、自然に外8:内2の内足荷重となり、それ以上の意識的な内足意識は、既に内足荷重過多の領域になっている可能性が非常に高い。
市野スキー理論は、スキーの持ち上げ動作が無くなった滑りを、内スキー荷重と誤認し、内足の荷重過多・・・という間違った方向へ技術を煮詰めてしまった。その結果が「やじろべえ」なのではないだろうか?
【今回のまとめ】
①現実にそぐわない「やじろべぇ」と呼ばれる滑りがトレンドとなっている。
②本当に両足荷重しているかどうか?第三者にはわからないのではないか?
③内足を置くだけで8:2の荷重比率になる。(片足の重量分?)
④9:1の荷重配分にするには内足の持上げを意識する必要がある。
Schi Heil !!