「一泊二食付きの馬鹿げたシステムが日本旅館を滅ぼす」について

【一泊二食付きの馬鹿げたシステムが日本旅館を滅ぼす?】

まず、下記リンク先の文章を読んで頂きたい。
文春オンラインより「一泊二食付きの馬鹿げたシステムが日本旅館を滅ぼす」

この筆者の考える通り、一泊二食付きを廃止して街の飲食街を充実させれば、温泉街は潤うのだろうか?
日本人と欧米人の、働き方や余暇・レジャーに対する考え方の違い、男女の家事分担に対する考え方などを考慮せずに、この問題は語れないはずだ。私は一泊二食付きのシステム全てが馬鹿げているなどとは思わないが、その一方で、概ね筆者の言い分は賛同できると考えている。

【筆者は何を問題視しているのか?】
まず筆者の言い分である「日本独自の一泊二食付きのシステム」の全てが、ナンセンスで馬鹿げているのだろうか?引き合いに出されているのは、駅からマイクロバスのお出迎えが来て、女中さんが上げ膳据え膳のサービスを行う、まるで昭和30年代の邦画「社長シリーズ」に描かれているような旅館のサービスだ。

こういった昔ながらのサービスを行う旅館がある一方で、同じ一泊二食付きの旅館でも、白馬村の喜多店旅館の様に(笑)、食堂に集まって部屋毎に食事をする、いわゆる大衆旅館の存在がある。筆者は一泊二食付き全てを悪者にしているが、前社と後者では大きく意味合いが違うはずだ。後者は概ね、夕食は日替わりで、宿泊費もリーズナブル、長期の連泊も可能である。筆者の言う通りに、こういった大衆旅館までも素泊まりにして、外食に移行させるのはいかがなものか?

とはいえ、筆者の言う問題点は、上げ膳据え膳のサービスがあるとか無いとかではない。日本の宿の大半が食事付きであるため、食事が固定化されてしまい、街に飲食店や飲み屋、その他娯楽施設が根付かない・・・というものだ。食事付きの宿の影響で街全体が沈静化しているというのである。

【休日取得の実情と夫婦間の作業分担】
文中には日本を訪れるインバウンドの記述がある。特に欧米系のインバウンドにとって、食事付きの和風旅館は、興味の対象であるにもかかわらず、人気が無いのは事実のようだ。日本と違い、長期の休暇取得が可能で、夫婦間の家事分担に偏りが少ない欧米人にとって、食事を任せっきりにする和風旅館よりも、宿泊費の安い、キッチン付きのコンドミニアムに長期宿泊する方が、理に適っている。
仮に昭和30年代の日本人の家族がコンドミニアムに長期滞在したら、家事は全て夫人が受け持つことになり評判は最悪となるだろう。上げ膳据え膳のサービスが未だに人気があるのは、日本の夫婦間事情が大きく影響している。言い換えれば、コンドミニアムの利用は、夫婦間の家事分担がバランスが良好であることが前提のシステムと言える。
調べてみると「ケイズハウス伊東温泉」の様な、自炊設備完備の温泉宿がインバウンドには、大変、好評なようだ。私もぜひ泊まってみたい・・・

【純日本的サービスはアキレス腱か?】
では、コンドミニアムと対極にある一泊二食付き・上げ膳据え膳サービスの宿はどうだろう。
上げ膳据え膳・・のサービスを提供する旅館が全国にどれほど存在しているのか?簡単だが調べてみた。

駅からお迎えの有無はともかく(笑)、評判も良く、繁盛している様に思える。
ところが、気になるのは口コミ投稿者の年齢層だ。大半が50代~70代と高齢で、若年層の口コミ投稿者は極めて少ない。これはいったいどういうことか?
時間も懐も裕福なシニア層だから・・・というのも理由の一つだろうが、これはもう世代による趣向の違いだろう。夫は家事にはノータッチで仕事に没頭し、妻が専業主婦だった世代に好評なのである。
裏を返せば一泊二食付き・上げ膳据え膳サービスは、インバウンドはおろか、日本人の若年層にも受け入れられていないということだ。これには現在の若年層が抱える問題の一つである収入の少なさも原因しているだろう。彼らにとって一泊二食付き・上げ膳据え膳サービスの宿は高根の花といえる。加えて、彼らは現在の高齢者ほど夫婦間の家事分担が偏って無い。妻が家事から解放されるというメリットが、昔ほどのインパクトを得られないのも事実である。
この先、若年層世代がシニア層になった頃、現在のシニアほど裕福でないのは目に見えている。利用者減は免れないだろう。調べを進めると、老舗旅館ほどリニューアルなどの設備投資費用がかさむ為、経営が傾いた途端、一気に廃業する傾向が強いようだ。現在のシニア層と世代交代が起こる頃、一泊二食付き・上げ膳据え膳サービスを提供する旅館が、軒並み廃業して行く可能性は高いと言える。そうなる前に、若年層にもっと上げ膳据え膳サービスの良さを理解してもらえる環境作りが必要だろう。

【インバウンドに頼る実態】
私の地元にある老舗の宿泊施設・・・。その昔、皇族の保養地だったという名の通った施設だが、今や日本人の利用は土日祝のみ。平日はインバウンドの宿泊者で埋め尽されており、既にインバウンド無しで経営が成り立たない状況にある。
そのインバウンドの内訳だが、台湾からの訪問者が中心である。彼らは、いわゆる爆買いの中国人とは異なり、やや上品であり、親日的だ。
19時頃、バスで大挙して来館し、チェックイン。食事は外で済ませて来るか、コンビニ弁当を客室内で食べている。施設には洋風、和風レストラン、料亭、中華料理店、バーなどが完備しているが、彼らがそこで食事をすることは一切無い。翌早朝(5~6時台)にはチェックアウト。彼らが出て行った後の室内は、コンビニ弁当の容器が散乱し、惨憺たる状況となっている。
彼らとって、宿は寝るだけのものであり、それ以上のものは何も無い。インバウンドに頼る宿泊施設の現状とはこんなもんである。

【大衆旅館を全て素泊まりにする意義は?】
では、白馬村の喜多店旅館の様な大衆旅館を、軒並み素泊まりにした場合、街全体として潤いが得られるのだろうか?
まず、日本人の場合、世代による趣向が変わりつつあるとはいえ、インバウンドほどに受け入れられないのは事実だろう。街全体が潤うには、飲食街、その他の施設が魅力あるものでなければならない。このあたりのバランス取りは、日本人には未知の分野となろう。欧米の事例をそのまま引用しても、文化的背景の違いを考慮しなければ、失敗するのは目に見えている。そもそも宿を素泊まりにした場合、その宿に泊まる意義は何なのか?飲食街に近いとか値段が安いとか・・・宿そのものの存在意義が薄れてしまうように思う。

そもそも、旅館を全て素泊まりにしてしまうのは、現実に無理がある夢物語だ。だが一方で、道の駅を利用した車中泊の旅行がブームとなっており、旅館離れが起こっているのも事実である。どこに行ってもコンビニがあり、旅先の食事をコンビニや牛丼チェーン店で済ませるのも珍しい事ではない。一泊二食付き・上げ膳据え膳サービスの宿が消えて行くのも時間の問題だろう。挙句の果ては、コンビニ弁当のゴミ問題である・・・
今、日本の宿泊施設に求められるのは何だろう?インバウンド相手に様々なサービス展開をすることだろうか?それとも伝統を継承しながらも、様々なニーズに対応できる多様性だろうか?難しい時代になったものだと思う。

Schi Heil?!!