「戦争は女の顔をしていない」(2020/09/03)

第二次世界大戦ソ連戦没者数は、兵士、民間人を含めて2150万人だったとされる。一方、太平洋戦争における日本の戦没者数は310万人・・・

なんと、日本の約7倍にも及ぶ戦没者数であり、戦時中の日本の人口にあてはめると、国民5人に1人が戦没死したことになる膨大な人数である。ちなみに現在の日本の都道府県の人口にあてはめると、東京都と大阪府を合算した人々が、主に独ソ戦で戦没死したことになる。

まぁ、映画を例にはしたくないのだが、スターリングラード(2001年米国)の冒頭、主人公が、ほぼ拉致されたような状態で戦場に護送され、逐次投入され、後方には赤軍が機関銃を構えて逃げ返って来る兵士を射殺・・・的なことが行われていたとされる。(※実は映画スターリングラードよりも前に、ノモンハン事件の調査で同じような逸話を複数、聞いていた。)

(※P127;「旧式の1トン半トラックで志願兵たちが運ばれて来た。老人や子供たちが。手榴弾を2つずつ与えられて、ライフル銃も持たずに戦闘に出された。戦ってそこでライフル銃を手に入れるしかなかった。」)

とにかく、人間を機関銃弾のように次々と戦場に送り込み、祖国防衛を果たした。 

本書は、そんな戦いに投入されたソ連軍部隊の、女性兵士らのインタビュー録である。

祖国防衛に立ち上がった女性たち・・・狙撃兵、衛生係、洗濯係、運転係、通信兵、軍医などなど、様々な分野の証言が本書には集められている。

これら証言の聞き取りは、著者によってペレストロイカ以前のソ連、1978~1985年にかけて行われた。

日本では2008年にようやく発刊され、昨年、コミック化され注目を浴びている。

そのインタビュー人数は500名以上・・・彼女たちが体験・目撃した残虐な行為が、本書では約480ページにわたり延々・累々と記述されている。

本書を読めば、ソ連軍、ドイツ軍、パルチザン抵抗勢力)・・・残虐行為は敵味方に及んだことがよくわかる。戦争に正義もへったくれもない。

こんな内容であるから、ソ連国内での初回出版の際には検閲が入り、また自主的な削除もかなりに及んだという。新版ではこの自主的な削除の部分が再掲載(2002~2004年に再編集)されているのが興味深い。

ソヴィエト連邦にとって、ソ独戦の勝利は輝かしい栄光の歴史である。それに泥を塗るような内容を、戦後30年も経過した後、改めて掘り起こして世間の目に晒す・・・それに何の意味があるのか?俗世な心理を煽って儲けたいだけでは?

例えば現代、SNSでこんな話題を発信することすら同様なのだろう。仲間同士の楽しいやりとりに、水を差すような話題をUPする、その意味がわからない・・・と。

僕は著者の狙いは、従軍した彼女たちの戦後だと考える。苛烈な戦場を生き残り、祖国の英雄として勲章を授与された彼女たちが、戦後、いわれのない差別に従軍を(勲章を・・)ひた隠しにして生きることを強いられた・・・

本書に納められている残虐行為は、沖縄戦満州引揚げの際に発生したものと同様である。敵対するドイツ軍の残虐行為のみならず、パルチザン赤軍の行為も赤裸に描かれている。つまり、簡単な話、従軍したということは性的暴行を受けた可能性も否定できないのである。献身的犠牲で祖国を救った女性たちが、戦後、いわれのない差別から事実をひた隠しに生きる姿を著者は見てられなかったのだと思う。

残念なのは、これら証言が著者との会話の中で記録され、口語のまま活字化されている点だ。主語が飛んでいる場合が多く(あまりにも多い)非常に読み難い。

そしてあまりにも膨大な証言数である。正直なところ、一つ一つの証言に、それぞれ、一人一人の人生が集約されていることは理解できても、最後まで一つ一つ丁寧に証言を追いかけて丁読む意味はあるのか?とさえ思う・・・

昨年、日本人女性漫画家によってコミック化されたが、そちらの方が読みやすい。描写も正確で丁寧だが、ややドラマチックに描き過ぎているきらいがある。

機会があればコミックの全編も読んでみたい。