【プルーク暴言B】005号

【プルーク暴言B】005号

プルーク暴言001号~004号までは、カービングスキーの登場にまつわる話題を記述してみた。これからしばらく、「カービング革命」という書籍と、日本スキー界に暗黒の10年をもたらした「市野スキー理論」の矛盾点を探って行こうと思う。

さて、前にも書いたが、私が初めて履いたカービングスキーは、1999年に購入したケスレー・エアロスピード170cmだった。それまで履いていたディナスター・クープG9の200cmと比較すると30cmも短く、スキーがキョロキョロする印象があったのだが、ある時、内倒した拍子に転倒せず、そのまま滑りきることが出来た。
倒せば倒す程、むしろスキーは安定する・・そんなカービングスキーの一面を知ったのはこの時だった。

しかし、重要なのは、このカービングスキーの特徴が必ずしもスキー技術の向上にプラスに働くものではないということだ。私の場合、「倒さない、切らない、圧を求めない」、この3つのポイントに気がつくまで、1級を落ち続けた。いわゆるカービングスキーの弊害にどっぷりと浸っていたわけだ。

このカービングスキーを使用した滑りには、トラディッショナルスキーにはなかった独特のシルエットが現れるようになった・・これは紛れも無い事実である。そして、この独特のシルエットに着眼点し、実験などのデータを元にカービングスキーの特徴を解明しようとしたのが、「カービング革命」という書籍・・のはずだった。

 

【書籍「カービング革命」における市野教授の着眼点の要約】

市野教授の着眼点は以下のようなものである。
カービングスキーの登場により、回旋運動を省いた荷重と角付け中心の滑りが可能となった。
・角付け中心で滑るには内足主導型の滑りが適している。
・Gに対抗する為、内向のシルエット、操作が著明となる。
特に2番目の「角付け中心で滑るには内足主導型の滑りが適している」を証明するため、2名の超有名スキーヤー(猪又一之と山本さち子)による滑走実験と模型実験を行なったはずなのだが・・・・。
(※この時はまだ「ターン内側への落下運動」はそれほど強調されていない)
(※この着眼点だけをみれば真っ当な印象を受けるのが不思議)

 

以下に書籍「カービング革命」の目次を記す。

『プロローグ』
ターン理論の新しいパラダイム
 1、「外向傾」神話の崩壊
 2、カービングスキーカービングターンができる?
 3、ターン理論の新しいパラダイムを求めて

『Chapter1』
カービングターンを求めて
 1、カービングターンに有効なスキー操作
 2、スキーは角付けによってターンする
 3、スキーの角付け角とターン運動
 4、カービングターンとカービングスキー

『Chapter2』
何がターン運動を起こさせるのか
 1、ターンの構造としくみ
 2、物理運動がターン運動を起こさせる
  1)落下運動
  2)落下運動にともなう抵抗
  3)物理的運動によるターン運動
 3、身体的運動がターン運動をコントロールする
  1)間接的な身体的運動と直接的な身体的運動
  2)身体的運動を決定する斜面観と水平観
 4、ターン運動に影響をおよぼすスキーの特性
  1)ターン運動に影響をおよぼすスキーの柔軟性
  2)回転半径に影響をおよぼすスキーのサイドカット
  3)ずれに影響をおよぼすスキーのねじれ強度

『Chapter3』
ターン運動の進化とその統合の試み
 1、古典的(スリッピング)ターン
  1)スリッピングターンの運動
  2)スリッピングターンの物理的運動
  3)スリッピングターンの身体的運動
  4)スリッピングターンの基礎技術の展開
 2、発展的(スキッディング)ターン
  1)スキッディングターンの運動
  2)スキッディングターンの物理的運動
  3)スキッディングターンの身体的運動
  4)スキッディングターンの基礎技術の展開
 3、革新的(カービング)ターン
 1)カービングターンの運動
  2)カービングターンの物理的運動
  3)カービングターンの身体的運動
  4)カービングターンの基礎技術の展開
 4、ターン運動の統合

『Chapter4』
 1、カービングターンの技術的特性
  1)カービングターンのしくみ
  2)水平面への角付け
  3)角付けと荷重の統合
 2、カービングターンにおける内向内斜姿勢
  1)センターとコア
  2)車の前輪から学ぶターン運動
 3、カービングターンにおける練習の展開
  1)カービングターンは斜滑降から
  2)外スキー主導のカービングターン
  3)両スキー主導のカービングターン
  4)内スキー主導のカービングターン
 4、カービングターンの発展

『エピローグ』
スキースポーツの未来に希望を託して
 1、ターンテクニックの新しい理論的パラダイム
 2、スキースポーツの新しい指導を求めて
 3、スキースポーツの未来に希望を託して


目次だけで見るなら、非常に良くまとめられている印象を受ける。
内容精査すると、途中から話題が急展開するのが特徴である。自分でも訳がわからなくなったのかもしれない。また、全てが全て間違ったことを書いている訳でもない。トラディッショナルスキーの操作の特徴として記述された部分は、従来の日本スキー教程の内容を踏襲しており、内容に間違いはない。
(※『Chapter3』2、発展的(スキッディング)ターンまでの内容は、従来のスキー理論を踏襲しており、正論である。日本スキー教程を参考にしたのだろう)

 

【書籍「カービング革命」における主な理論展開】

それでは、記述された内容に関して少しコメントをしてみたい。

P10、「外向傾」神話の崩壊
カービングスキーを使って、これまでスキーテクニックの基本であるといわれてきた「外向傾姿勢」でカービングターンをしようとすると、あなたはターン外側に放り出されそうになるかもしれません。これは、これまでのものより強い遠心力がかかることになるからでしょう。(中略)これまでの定説とは逆の、内向内傾のような姿勢が現れてくることになるでしょう

(※)かなり古いタイプのトラディッショナルスキーを扱うような、スキーに仕掛ける動作でカービングスキーを操ると、確かにとんでもない状況に陥ることがあり、これは紛れもない事実である。しかし、今日言えるのは「内向傾」でなければ、滑走効率が落ちるということでは無かった・・・ということ。

P24、ターン理論の新しいパラダイムを求めて
厳密にいえば、カービングスキーをこれまでどおりの技術だけで使用しても、カービングターンにはならないということです。(中略)あくまで仮説的ではありますが、カービングターンに求められるターン運動は、スリッピングやスキッディングにおけるターン外側への力のコントロールによるものではなく、積極的にターン内側への物理的な力を生み出すことによって可能となるズレの少ないものです。

(※)これも、現在の視点で見る限り、「積極的にターン内側への物理的な力を生み出す」のような操作をしても滑ることが可能だった・・・という程度の話。仮説的ではありますが・・・の通り、実証は出来ず単なる仮説だった。

P28
次のような仮説のもとに、カービングスキーとノーマルスキーを使って、角付けと荷重によるターンを実験的に試みることにします。①スキーは、荷重と角付けの統合的操作によってターン運動を起こす。②ターン運動の回転半径は、角付け角度が大きい程小さくなる。③カービングスキーとノーマルスキーの両者において、前記①②の特性は共通であるが、カービングスキーの方が同じ条件下でのターン運動の回転半径は小さくなる。

(※)この記述は正しい。カービングスキーの方がサイドカーブのRが小さいので、より小さな回転半径での滑走となる。

P32
(2名のデモによる角付けだけで滑る実験の結果、ズレの少ないダブルトラックの軌跡が残ったという結果から)
「角付け、荷重、回旋がターン運動に必要であり、基本的技術要素である」とした、これまでの考え方が、少なくともカービングスキーによるカービングターンにおいて否定される可能性のあることを示唆しています。

(※)ここで氏が言いたいのは、サイドカーブに乗って滑れば回旋動作が不要になる・・・ということだが、これだけの結果を基に、過去の定義が覆されるというのは強引。この飛んだ理論展開はマルチ商法的でもある。しかも「少なくとも」「可能性」という言葉を入れ込んでの否定であり、この時点では仮説。

P36
(ノーマルスキーにて、同条件で2名のデモによる実験を行った結果、カービングスキーより大きな回転半径となったものの、ズレの少ないダブルトラックの軌跡が得られた。)
これらの結果からみて、荷重と角付けによるカービングのターン運動は、その基本的性格がカービングスキーの特性のみによるものではないことだけは明らかです。

(※)つまり、トラディッショナル、カービングスキー共に、エッジに乗ったターン(レールターン)をすればカービングターンは可能だということを実験で証明したのである。トラディッショナルでもカービングは可能となり、このあたりから、焦点が何なのか?わからなくなってくる。

P40~P44(内容は略)

(※)角付けでカービングターンを描く事は可能だと分かったが、斜面に角付けされている斜滑降は直進するのはなぜか?という疑問を呈し、実験から「水平面への角付け角度0度でスキーは直進し、水平面への角付けでターン運動を起こす。」と結論付けている。いわゆる水平面理論というやつである(※要は、実験結果から明らかである・・としたようだ)

P50、ターンの構造としくみ(内容は省略)

(※)サイドカットの無いスキー模型による実験の結果から、スキーは角付けだけで曲がるという結果が得られたとしている。しかし、この模型で得られた結果というのは、重みが加わった側の滑走面の抵抗が増し、結果、進路が曲がった可能性が高い。

P84、スキッディングターンの身体的運動
スリッピングターンの身体的運動では抜重、回旋が中心でした。スキッディングターンでは、荷重、角付け、が重視され、回旋の役割が軽くなったといえるでしょう。この結果、スキッディングターンの身体的運動では、スリッピングターンでの外向姿勢より正対に近くなり、スピードが増し、横ズレが少なくなる分だけ外傾姿勢が弱くなります。

P92、カービングターンの身体的運動
カービングターンの身体的運動は、ターン運動に導く物理的運動をコントロールする身体的運動が中心です。カービングターンの身体的運動の特徴は、荷重と角付けの統合にあります。つまり、荷重と角付けが一体化されることによって、物理的運動が引き出されるのです。
カービングターンの身体的運動は、ターン外側からの抵抗に対抗するスキッディングとは異なり、ターン内側への落下運動を求めることから、ターン運動のための上下運動の必要性はなくなったといえます。
この結果、カービングターンの身体的運動では、ターン運動に必要なターン内側への力を生み出すための内スキー主導の「内傾姿勢」と、内スキーに外スキーを同調させるための「内向姿勢」とが必要となります。

(※)散々、トラディッショナルスキーとカービングスキーの違いは、サイドカーブの違いだけで、共にカービングターン(レールターン)は可能・・・と定義し、角付けすれば曲がるスキーが、斜面に立つという「角付け状態」で直進することから「水平面理論」という新しい定義を導き出し、その「水平面理論」の証明として、サイドカーブの無いスキー模型の実験により角付けだけでスキーは曲がるとしたのだが、ここに来て、いきなりカービングスキーの操作は内スキー主導だという突然の展開を見せるのである。

とにかく、あっぱれ!としか言い様のない内容である。

 

【今回のまとめ】

①「カービング革命」という書籍の一部には常識的な内容が記述されている。
②角付けだけでもスキーは曲がるという一般常識を証明しているが、それで従来のスキー操作が間違いであったとする展開は、マルチ商法まがいの展開。
サイドカーブの無いスキー模型が角付けだけで曲がる実験は、更に詳細な実験をすべきだった。
④ターン内側への落下運動と、数々の実験との関連があまりにも不明瞭。

 
Schi Heil !!